Case01
声掛ケア
「子育て」を支え、
女性が活躍する社会を創る
子育て中のモヤモヤを解消する
AIキャラクター「光子」さん
「こえかケア(声掛ケア)」は、”子育ての悩み”を気軽に話せる生成AIチャットサービスです。
”子育て”には正解がなく、仕事のように結果がすぐに出るわけではないので、自信を失う人も多いもの。産休・育児休業中に、”子育てや仕事”への漠然とした不安が大きくなってくると、自らのモチベーションを上げる気持ちの余裕もなくなります。
そんなとき「こえかケア」では、いつでもLINEアカウントのAIキャラクター「光子さん」に相談することができるので、話しかけて”言語化する”ことで心のなかにあるモヤモヤを解消できます。
実際に、「こえかケア」を使っていただいたところ、AIチャットサービスの満足度は82%、継続希望は100%となり、多くの方々に「今後も使ってみたい」と回答いただきました。(2024年5月の実証実験にて)
働く人にとって「仕事」と「子育て」を両立させることは、とても大変なこと。産休・育児休業に入ったばかりの”子育て初期”は、会社の仲間と話すことも少なくなるので孤立や孤独を感じたり、一人で考える時間が増えてしまいます。
特に、産休・育児休業中で長期間にわたり休暇を取得することが多い女性にとって、この時期は「長期に休むとキャリアに不利にならないだろうか…」と不安が募るタイミングです。仕事から離れることでモチベーションも落ちやすい。
そうした不安な時期をいっしょに伴走し、子育てと仕事の両立させた働き方をポジティブにイメージさせてくれる存在が「こえかケア」です。
『こえかケア』を通じて、
「女性が活躍する社会を創りたい」
「女性の活躍が、本当の意味で推進されている社会を創りたい」
Blue Lab(ブルーラボ)の小川公仁子さんは、新規事業を立ち上げた目的をそう位置づけています。
日本で「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」が施行されたのは、2015年9月。世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数」を公表するなど、グローバルでもダイバーシティが推進され、国際社会では女性の活躍が広がっています。
一方で、2022年の日本の女性管理職比率は12.9%にとどまり、経済協力開発機構(OECD)によると、日本の男女の賃金格差はG7で最も大きくなっています。
小川:「企業もこの状況を打破しようと努力していますが、一気に変えようとすると混乱が生じますし、どうしようか迷っている担当者の方も多いと思います。そうした担当者の方々が『こえかケア』があるので、安心して産休・育休に送り出せる。そんなサービスにしたいんです」
『こえかケア』は、企業の人事担当者に向けてサービスを販売するBtoBのビジネスです。AIチャットサービスのほかにも、産休・育休中の人たちがオンラインを前提としたリアルの場で集まるコミュニティをつくり、専門家を交えた座談会を行うなど休暇中の社員の方々をフォローアップし、その状況を人事担当者にフィードバックする統合サービスを計画しています。
現在、労働政策審議会(厚生労働省の諮問機関)で女性活躍推進法の改正が議論されており(2024年8月現在)、従業員301人以上の企業は「女性の管理職比率を公表する」ことが義務づけられる見通しです。その数は、国内で1万8000社にのぼり、『こえかケア』は新たに顕在化するだろう企業のニーズを狙います。
(「女性の管理職比率、企業に公表義務 従業員301人以上」 日本経済新聞)
「ゼロから創る面白さ、お客さまに触れられるから楽しい」
なぜ『こえかケア』を企画したのでしょうか。小川さんのキャリアは、株式会社富士総合研究所(現「みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社」)で介護保険にかかわる新規システムの開発に携わることからスタートしました。
小川:「介護保険制度が始まったばかりで何もかもが新しく、デジタル化されたデータをつかって誰もやったことのないシステムづくりに関わることができました。それがとても面白く、ゼロから創ることの楽しさを知りました」
その後、公益法人などの外郭団体の入札提案対応、システム提案・営業などの上流工程を中心にさまざまなプロジェクトを経験し、「やっぱり新規事業をやりたい」と手を挙げて今に至ります。
小川:「新規事業の要件定義や設計フェーズでは、お客さまとのコミュニケーションがとても重要です。相手が何を求めているのかを丁寧に聴き出す必要があるので、人との関係性をつくる”関係構築力”がとても鍛えられました。お客さま、ユーザーに直接に触れられるから楽しいんです。そうした経験が今に活きています」
『こえかケア』は最新の生成AIを使っています。2024年版「情報通信白書」によれば、国内企業で生成AIを業務で利用している割合は46.8%で、米国(84.7%)や中国(84.4%)と比べるとかなり低い数値です。
Blue Labは、みずほフィナンシャルグループ(FG)が出資する会社であり、生成AIのような新しい技術を使うのに躊躇しなかったのでしょうか。
小川:「Blue Labは、ゼロから個人の問題意識で新規事業をつくれる環境があります。生成AIに迅速に対応できるのも、この環境があるからです」
Blue Labには「説明不要の信頼感がある」
「なぜ、みずほが子育てサービスをやるの?」
PoC(実証実験)を進めるなかで、幾度となく小川さんは聞かれたそうです。それは決してネガティブな反応ではありません。
小川:「みずほFGが出資するBlue Labが非金融をやるからこそ、意外性があります。やる必然性がないにもかかわらず新規事業を立ち上げる。だからこそ、ビジョンに共感してもらいやすい。ギャップがあるから伝わる”本気度”のようなものがあると思います」
では、新規事業をBlue Labで立ち上げるメリットには、どんなものがあるのでしょうか。
小川:「Blue Labは、虎ノ門ヒルズ インキュベーションセンター『ARCH(アーチ)』に所属しています。ARCHには大企業で”事業改革”や”新規事業創出”をミッションとするような組織がたくさん入居しているので、ここのつながりはとても役立ちます。たとえば、『こえかケア』の販売先は企業なのですが、プロダクト開発段階で実際の担当者にたくさんヒアリングすることができるので、PDCAを早く回すことができます」
さらには、”みずほFGが出資している”ことは、相手に安心感を与えるようです。
小川:「ファーストコンタクト、初めて連絡するときに無名のスタートアップであれば会ってもらうのに苦労すると思いますが、多くを説明することなく、これまで何十社とヒアリングや面談をさせていただくことができました。ママコミュニティとの連携も、『なぜあなたたちと組む必要があるのか』といった疑問を持たれることはなく、最初からミッションに共感して協力をいただけています」
さらなる目標は「男性社員の育休取得”日数”を伸ばす」
近年、メンタルヘルステックの市場は広がっています。これまでは対人での支援が主流でしたが、AIを使いながら自身でメンタルヘルスケアの方法を学んで実践する、「セルフヘルプ」サービスを提供するスタートアップが多く登場しています。
今後、「こえかケア」をどのように進化させていくのでしょうか。
小川:「AIは進化するほどに賢くなりますので、人間が『恐いかもしれない』と思うぐらいになってくるかもしれません。そのときにAIに求められるのが”安心できる人間味”なのではないかと考えています。たとえば、ユーザーから子どもの誕生日や年齢などの属性に関連するようなデータをうまく聞き出すことで、AIの返信内容をパーソナライズすることができるので、より”人間味”を持たせることができるかもしれません。また、BtoBであることを活かして、オンラインを前提としたリアルの場で集まるコミュニティからのフィードバックも、AIチャットサービスに活かしていきたいですね」
さらに、「こえかケア」を広く展開していく計画です。
小川:「育児休業するのは女性だけではなく、男性も同じです。近年、育休を取得する男性社員も増えていますが、会社が”育休取得の有無”だけを指標としているような例もあり、数日の休暇取得で復帰するような少ない日数にとどまるケースも多々あります」
育児休業などを理由に男性社員へ「休みを取るなら次の昇進はないと思え」など圧力をかける「パタニティーハラスメント(パタハラ)」も問題となっており、厚生労働省の調査によると管理職男性の3人に1人が被害を受けているそうです。
(「パタハラ被害、管理職男性の33%が経験 育休の阻害など」日本経済新聞)
小川:「男性が『ちゃんと育児に向き合える育休』を安心してとれる環境を整備していくことがとても大事です。結果として女性がより活躍する社会につながっていきます」
小川:「『こえかケア』での育休取得希望者や育休者とのコミュニケーションを通じて、”休む側”と”働く側”の相互の理解を深め、男性社員の育休取得の日数も伸ばしていきたいです」
現在、「こえかケア」は試験運用中のサービスです。Blue Labの新規事業として、これからのビジネスの発展が期待されています。